薬剤師の仕事内容

薬剤師は説明を断る患者に薬を渡していい?薬学管理料はどうなる?

「説明はいらないんで、とりあえず薬ください」

薬剤師として働いていると、誰しも一度は言われたことのあるセリフですよね。

その時に迷うのが、「本当に説明なしで渡しちゃっていいのか?」というところと、「薬学管理料は算定していいの?」ではないでしょうか。

今回は患者さんに薬の説明を断られた時、どう対応するべきかについて書いています。

もしかすると、今まで行っていた対応は法的にNGな可能性もあるので、念のため今一度確認しておきましょう。

薬の説明をせず渡すだけでは、罰せられることも

患者さんが薬の説明を断るからといって、言う通りに薬を渡すだけでは、あとから罰せられる可能性があります。

その根拠は、薬剤師法、またさらに広い職域に適応される医療法にあります。

医療法 医師等の責務(第1条の4)

医師、歯科医師、薬剤師、看護師その他の医療の担い手は、医療を提供するに当たり、適切な説明を行い、医療を受ける者の理解を得るよう努めなければならない。

薬剤師法 情報の提供及び指導(第25条の2)

薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。

「必要な情報の提供と指導は薬剤師の義務であり、患者さんに理解を得るよう努めないといけない」ということですね。

ですので、もしそれを行わず、患者さんに健康被害が発生した場合は薬剤師が責任を問われる可能性があるのです。

そういった事態を避けるためにも、いくら患者さんから「薬の説明はいらない」と言われても、なるべく必要最低限の聞き取り・説明を行うよう対応策を考えましょう。

断る理由によって対応を考えよう

どうすれば、説明を断る患者さんを説得できるのか。

どういった理由で患者さんが説明を断っているのかによって、その対策も変わってくるでしょう。

説明を断る患者さんのパターンを4つに分けてみました。

1、急いでいる

説明を断られる理由として、一番多いものではないでしょうか。

「タクシーを待たせている」「もうすぐバスの時間だから」と言われると、こちらもついそれに焦らされてしまいがちです。

患者さんの都合も分かりますが、そういった場合でも、最低限のことはなるべく聞き取るようにしましょう。

その時の工夫としては以下のようなものが良いでしょう。

オープンクエスチョンよりもクローズドクエスチョン(YES,NOで答えられる質問)を心がける

相手は急いでいるため、なるべく会話自体したくないという状態です。

「今日はどうされたんですか?」や「血圧今日はどれくらいの値でした?」

のような、答えの幅がある質問(オープンクエスチョン)がくると、イラッとされるでしょうし、「あなたに関係ない」と聞き出せないこともあります。

それよりは、処方薬からだいたいの予測をつけて

「今日はお腹の薬出てるけど、前と同じような胃痛ですか?」

「血圧の薬増量してるけど、今日ちょっと高かったんですかね?」

のように、YES、NOで答えられるクローズドクエスチョンを心がけましょう。

患者さんにストレスを与えることなく、最低限聞かないといけない情報を、手早く集めることができると思います。

必要な動作(会計や袋詰めなど)で手を動かしながら、会話を進める

手を止めて会話をしていると、「何をのんびりしてるんだ」と向こうの怒りを買うため、なるべく必要な動作を行いながら会話を進めましょう

ただ、会話しながらの会計などは、気が散って間違いが発生する可能性もあるので慎重に行うということも肝心です。

最低限、聞き出しが必要な残薬確認などであれば、

「家に薬余ってませんか?」

と聞くだけなので、それほど気を取られることなく会話できると思います。

2、いつも同じ薬だから、もう説明はいらない

これも1の急いでいると同じく、よくあるケースです。

確かに、慢性疾患の薬であれば、何年も同じ薬を飲み続けている患者さんも多いです。

「毎回あれこれ聞き出されたり、同じような説明を受けるのが面倒。」

という気持ちは分からなくもないです。

ですので、そういった患者さんにはこちらの質問も工夫が必要です。

指導のバリエーションを増やし、相手の気を引くような話を心がける

毎回「今日は血圧どうでした?いいですね。この調子でいきましょう。」

ばかりだと、向こうも「別に話さなくてもいいかな」と思いがちです。

そこで

「血圧いつも通りばっちりですね。

でもこれから冬になるとどうしても血圧上がりやすいです。

鍋物なんかも増えて塩分摂取も増えがちなので注意してくださいね。」

「グレープフルーツジュースだけじゃなくて、夏ミカンなんかも薬の効果上げちゃうんですよ。

自家製でジャムなんかにしている人が多いんで、一応注意してください。」

のような感じで、患者さんも「知らなかった!やっぱり薬剤師はためになることを教えてくれるし、話もちゃんと聞かないとな。」と思ってくれると良いですね。

患者さんの性別や年齢から、共感ポイントを引き出せるような、指導の引き出しを持つことが大切です。

褒める

指導の引き出しを広げるためには、ある程度の経験も必要になってきます。

もしまだ経験も浅く、いい指導が思いつかない場合は、毎回同じ薬が続いているということは、うまくコントロールできている証拠だと褒めてみましょう

「この薬だけで7年間も維持されているんですね。

どうしても年齢を重ねるとお薬増えられる方が多いので、すごいことですよ。」

褒められて嫌な気分になる患者さんは少ないと思います。

そこを切り口に、患者さんとの良好な関係を築ければ、こちらの説明を無下(むげ)に断られることも少なくなるでしょう。

3、薬学管理料がもったいないから

2年に1回行われる調剤報酬改定。

そのたびに「お薬手帳を持っていけばお金が安くなる」や、「薬の説明文書を拒否すれば数十円得する」などといった話が週刊誌やテレビで報道されることがあります。

数年前そういった情報が誤解を招き「なんか薬局で説明受けたらお金かかるらしいよ」という見識を、持ってしまった患者さんが出て問題になったことがありました。

残念ながら、今でもその名残か、お薬代を安くするために説明は断るという患者さんが存在することも事実です。

「全ては薬を適切に使用してもらうため」薬学管理の重要性を話す

薬の説明・また必要事項を薬歴に記載することで加算される「薬学管理料」というものは、患者さんが薬を適切に使用するために必須であると、患者さんに理解してもらうことが大切でしょう。

例え、前回と同じ薬で新たに説明が要らないと患者さんの方で思ったとしても、

  • 「副作用が起きていないか」
  • 「飲み忘れが発生していないか」→「飲み忘れが多いようであれば服用タイミングの変更などの対策が必要」
  • 「味や大きさは飲みにくくなかったか」→「代替薬や剤形変更の対策が必要」

など、単にその薬に対する効能の説明だけでなく、服用後の患者さんの体調管理を行う、という意味合いも薬学管理には含まれています。

そういった意味合いを、患者さんに丁寧に説明することで、薬学管理料について納得してもらえるのがベストだと思います。

薬学管理料はそもそも患者さんの意思で外すことができないと説明する

保険薬局Q&Aでは「薬剤服用管理指導料に係る業務は、患者の求めに応じて実施するものではない」ともされています。

ですので「説明を聞かなかったら安くなる!」という誤った認識をどうしても覆してくれない患者さんには、以下のように伝えてもいいかもしれません。

「そもそも、薬学管理料は安全に薬を飲んでもらう上で、セットになっている加算です。

お薬で健康被害が起きてしまう可能性がゼロじゃないので、必要最低限の説明や聞き取りをせずにお渡しすることは難しいんです。」

と、「基本的に外すことはできない」スタイルで、患者さんの怒りを煽らないように、薬学管理料の必要性を、さらに強めにお話ししてみましょう

4、医師、薬剤師が来局したとき

医師や薬剤師が来局した時に、その身分が分かると、どうしても説明をするのははばかられますね。

実際、門前薬局などにユニフォームのまま来たのではなく、初めての薬局で「すみません、医者(薬剤師)なんですけど」と処方箋を渡されることがあります。

そうすると、それはほぼ間違いなく「薬の説明はいらないです(できたら管理料も外してください)」というサインでしょう。

さすがにそうされると、薬の説明はなかなかできません。

薬学管理料を外すところも多いのではないでしょうか。

ただ、薬学管理料は先ほども書いた通り患者側の意思で外すことは本来できないものです。

保険薬局Q&Aの、医師・薬剤師に薬学管理料は算定していいのか?という項目でも「専門外の疾患の場合は一般の患者と同様に必要性があれば算定できる」とあります。

ですので、もしこちらが薬学管理料を取るに値する聞き取りと情報提供を行なった場合は、堂々と算定しましょうね。

どうしても断ると言われたら

一番最初に「必要な情報の提供と指導は薬剤師の義務であり、患者さんに理解を得るよう努めないといけない。」とお伝えしました。

ただ、薬剤師には応需義務というものもあります。

(調剤の求めに応ずる義務)
第21条 調剤に従事する薬剤師は、調剤の求めがあつた場合には、正当な理由がなければ、これを拒んではならない。

この正当な理由というのは、薬剤師が急病、災害発生時など、どうしても対応が不可であるような理由が例として挙げられています。

「急いでいると言われたから」「薬学管理料算定のための説明を断られたから」などといった理由で調剤を拒否するのは、応需義務に違反する可能性があります。

また、確かに薬学管理料は絶対に算定しないと、薬局が罰せられるといったものではありません。

現に薬学管理料は以下のように定義されています

○患者等のプライバシーに十分配慮した上で実施しなければならない。
○ 薬学管理料における各種指導や情報提供は、その時点における個々の患者の状態等を
考慮して、当該患者にとって何が必要かをその都度判断することが必要である。
○ 指導内容の要点等を必ず薬剤服用歴の記録に記載する。
○ 保険薬剤師自身が個々の患者の算定可否を判断し、機械的に一律に算定を行わない。

調剤報酬はやわかりマニュアル(田辺三菱製薬)

「算定可否を判断し、一律に算定を行わない」という一文からも、「ちゃんと聞き取れない時は算定したらダメだよ」と指示が出ていることが分かります。

ですので、『応需義務』と『薬剤の情報提供の義務』のバランスを見て、薬剤師が取る対応は以下の2つのパターンがあると思います。

薬学管理料を外して渡す

『応需義務』>『薬剤の情報提供の義務』

となる場合ですね。

例えば、断る人のパターン1、2で挙げた「毎回同じ薬で、急いでいるし今日は説明いらない」みたいなケースであれば、大きな健康被害が発生する可能性もおそらく低いでしょう。

そういった時は、やむを得ませんが、説明なしで薬学管理料を外して渡すのが良いのではないでしょうか。

それにパターン3の薬学管理料を外してという患者さんに対して、薬学管理料算定の同意がどうしても取れない場合もあるでしょう。

その時は「万が一の体調不良の責任が取れないこと」に同意を得てから(できたら一筆サインをもらうといいでしょう)、渡すことをおすすめします。

調剤を拒否する

『応需義務』<『薬剤の情報提供の義務』

の場合です。

例えば、「明らかに他院を受診していて、重複投与の疑いがある。」

「今回処方されている薬で、前に副作用があったような形跡がある。」

などの場合に、それらの確認をさせてくれず、「なんでもいいから薬を渡して」と言われたときには、健康被害が発生してしまう可能性がありますね。

そこで、薬剤の情報提供の義務をさらに後押しする「薬剤の適正使用を確保する義務」をご紹介します。

医薬品医療機器等法 調剤された薬剤に関する情報提供及び指導等(第九条の四)

薬局開設者は、第一項に規定する場合において、同項の規定による情報の提供又は指導ができないとき、その他同項に規定する薬剤の適正な使用を確保することができないと認められるときは、当該薬剤を販売し、又は授与してはならない。

適正使用が確保できない状態で患者さんに薬を渡せば、薬局開設者まで罰せられる可能性があるということですね。

ですので、このような場合は患者さんにその旨をしっかり伝えて、調剤を拒否したとしても、単純にこちらの応需義務違反になるとは考えづらいです。

しかし、調剤拒否という事態は患者さんのためにも、やはり避けたいため、なんとか説得を試みたいところではあります。

最終手段だと思っておきましょう。

まとめ

今回は薬剤師の説明を断る患者への対応について考えてみました。

薬剤師は薬剤の情報提供の義務があるため、説明を断られたとしても、なんとか話を聞いてもらえるように説得を試みましょう

どうしてもという場合は、薬学管理料を外して薬を渡したり、調剤拒否することもあるかもしれません。

しかし、患者さんが説明を断っている理由によって、それぞれ適した対策を取っていけば、患者さんが薬剤師の話にも耳を貸してくれることになると思います。

患者さんに安心に薬を使用してもらえることが、薬剤師にとって一番大切な使命ではないでしょうか。

もし、今まで患者の求めに応じて説明なしで薬を渡すことが多かったのであれば、この記事が患者さんへのアプローチを見直すきっかけになれば嬉しいです。

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