処方せんに疑わしい点があった場合、薬剤師は必ず疑義照会をしなければいけません。
疑義照会の時、うまく聞きたいことが伝わらなかったり、照会先の医師に怒られてしまった経験はないですか?
正しい手順で行わないと照会先の医療機関だけでなく、患者さんともトラブルになりかねません。
また最悪の場合、患者さんの命に関わる重大な事故につながる危険もあります。
今回は、疑義照会をスムーズに行うためのコツや、疑義を発見するポイントについて解説します。
疑義照会とは?

疑義照会とは、処方せんや処方内容に不明点があった場合に、薬剤師が処方医へ確認する行為です。
薬剤師法24条:処方箋中の疑義
薬剤師は、処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。
疑義照会は、薬剤師法第24条によって義務付けられており、薬剤師の重要な業務です。
少しでも疑問に思ったことがあったら、それを解決した後でなければ、患者さんへ薬を渡してはいけません。
なぜ疑義照会が必要なのか?

薬剤師は、処方箋に基づいて調剤を行いますが、機械的に薬を用意しているわけではありません。
実際に現場で働いていると、薬で患者さんに副作用が出たり、アレルギーが起きてしまう場面に出くわします。
処方薬は市販薬に比べて、人体に及ぼす影響が大きいため、薬を渡す前に充分注意しなければいけません。
高齢者の増加に伴い、複数の医療機関にかかっている患者さんが増加しました。
そのため、違う病院から同じような薬が処方されている例もたくさんあります。
場合によっては命を落とすこともあるため、患者さんが安全に薬を服用する上で欠かせないものなのです。
日本薬剤師会の平成27年度の研究調査によると、
- 院外処方せんの疑義照会発生率は2.56%
- この内、処方が変更になった割合は74.88%
- さらに、重篤な副作用を回避できた割合は5.1%
という報告がされています。
割合で見ると少なく見えますが、この年の処方箋発行枚数は約7億8千万枚なので、計算すると・・・
重篤な副作用を回避できた件数は、約76万2千件という数となります。
このように、疑義照会が患者さんの健康被害を防ぐためにはとても重要な行為であると改めて感じます。
疑義照会には、大きな医療費削減効果もある
近年医療費の増加が大きな問題となっていますが、ここでも疑義照会が大きな成果を発揮しています。
患者さんが飲み忘れて家にたまっている残薬や相互作用の防止、重複投与の防止により、
年間約103億円の無駄な薬剤費を節約できています。
また、重篤な副作用回避をしたことで、治療にかかる医療費も削減できるため、
潜在的に133億円の医療費削減効果もあります。
これらを合わせて、年間約236億円の医療費削減効果が、疑義照会によって生み出されています。
このように、疑義照会は患者さんの健康を守るだけでなく、医療費削減など大きな効果を生み出す、
大変重要な薬剤師の業務であると言えます。
形式的疑義と薬学的疑義

疑義照会は、その内容によって「形式的疑義照会」と「薬学的疑義照会」に分けられます。
どちらも疑問点を確認するという点では同じですが、
それぞれチェック項目に沿って処方箋を確認すると、発見しやすくなります。
形式的疑義照会とは
形式的疑義照会は、処方箋の記載内容に不備があった場合に行う疑義照会のことです。
チェック項目は
患者の情報に関する事項
- 患者氏名
- 生年月日
- 性別
- 保険者番号
- 被保険者証の記号・番号
処方せんを発行する医師等に関する情報
- 保険医療機関の所在地及び名称
- 保険医療機関コード
- 電話番号、処方医氏名(印)
- 交付年月日
- 処方せんの使用期間
処方する医薬品に関する事項
- 投薬すべき医薬品名
- 分量
- 用法及び用量
調剤にあたっての留意事項に関する事項
- 後発医薬品への変更可能の有無
- その他調剤にあたっての指示
そもそも処方せんに記載されていなければならない項目が、きちんと書かれているかを確認します。
チェック項目がしっかり頭に入っていて、かつ処方せんを漏れなく確認するスキルが必要です。
まれに、カラーコピーなどの偽造処方せんを目にするかもしれません。
偽造防止の対策をとっている処方せんもありますが、かなり注意しないと見つけるのは困難です。
紙質やインクなどの違和感を感じることがあったら、特に注意してチェックしましょう。
薬学的疑義照会とは
患者さんから得られた情報をもとに、処方内容に問題ないか、
薬学的視点から確認し、疑問点や不明点があった場合に行う疑義照会のことです。
チェック項目は
- 患者さんの副作用歴やアレルギー歴
- 重複投与や併用薬との飲み合わせ
- 禁忌や慎重投与となっている疾患の有無
- 用法・用量
- 処方忘れや残薬調整
患者さんの状態確認や、薬の知識も必要なため、チェックポイント通りに確認しても見過ごしてしまうことがあります。
現在は、ほとんどの調剤薬局は電子薬歴を使用していると思いますが、
電子薬歴のメーカー問わず、併用薬チェックの機能が備わっていると思います。
自分の知識に自信がない場合は、このような機能を利用する手もあるので、必ず確認するようにしましょう。
薬学的疑義は、処方せんを見ただけでは発見できないことも多く、
知識や経験が必要になることが多いので、コツコツ日頃から知識をつけるようにしましょう!
疑義照会をしたら、必ず記録を残しましょう!
疑義照会を行ったら、記録を残す必要があります。
病院のカルテが訂正されていないこともあり、どのような経緯で変更になったのか記録することは、
トラブルを防ぐ上でとても重要です。
処方変更の有無に関わらず、処方箋の備考欄と薬歴に疑義照会の内容を必ず記録してください。
記録する内容は以下の内容です。
- 疑義照会した年月日と時間
- 連絡方法
- 回答者の氏名
- 疑義照会した薬剤師の氏名
- 質問した内容
- 回答内容
記載例
2021/10/20 10:30
薬剤花子 電話にて疑義照会
〇〇看護師経由 〇〇医師へ確認
Rp3.〇〇〇にて薬疹のアレルギー歴あり
処方医より〇〇〇へ変更と指示あり(用法・日数は変更なし)
このように、誰がみてもわかるように記録することが大切です。
疑義照会をスムーズに進めるテクニック

形式的疑義照会は、処方せんの記載内容をチェックポイントを抑えて確認すれば、不備に気がつくことができるでしょう。
しかし、薬学的疑義照会は知識や経験が必要なことが多く、
新人薬剤師が難しいと思ってしまう背景には、そのような原因があると思います。
下に、疑義照会が必要か確認するためのチェックポイントをリストにしました。
疑義照会チェックポイント
形式的疑義
- 正規の処方せんかどうか
- 処方せんの記載に不備はないか(記載項目、規格、用法など)
- 処方日数制限や投与制限を超えていないか
- 販売中止品目や名称変更品目はないか
薬学的疑義
- 処方忘れがないか
- 用法・用量は適切か
- 症状と処方内容が合っているか
- 禁忌や慎重投与すべき症例でないか
- 副作用や相互作用はないか
- 現在の通院状況
- 併用薬はないか
上記の点を注意して、疑義がないか確認しましょう。
そこで大切なのが、医師、患者さんとのコミニケーションです。
内容をわかりやすく伝えるためには、簡潔・明瞭に話す必要があります。
患者さん本人に診察時の指示や注意がなかったか確認する
同種同効薬が処方されていても、「最初の薬を飲み終えてから2番目の薬を飲む」というような指示があるかもしれません。
患者さんが希望して、医師と相談の上で処方したのに、薬剤師が勝手に処方変更の依頼をしてしまうなんてこともあるので、
必ず、患者さんに処方について指示がなかったか確認をしてから疑義照会をしましょう。
ちなみに、疑義照会すると患者さんへの処方は遅れることになりますし、信頼している医師が間違っていると指摘されれば、不安になったり、お怒りになったりするかもしれません。
無用なトラブルを防ぐためにも疑義照会する場合は、事前にしっかりと疑義照会の意義について説明し、同意を得るようにしましょう。
「要点をまとめて手短に!」が鉄則
電話をしてから内容を考えるなんて失礼に当たります。
疑義照会をしてから、実は他にも疑義があったなんてミスは無いようにしなければいけません。
不安な場合には、事前にメモに要点をまとめてから電話をしましょう。
事前に代替案を用意する
処方薬で副作用歴があった場合には、他の薬への変更をしなければなりませんが、
「同じような効果が期待できる代替薬は?」なんて先生にアドバイスを求められるかもしれません。
また、規格間違いの場合には、「この薬って何mgの製品があるんだっけ?」と聞かれることもあります。
事前に薬局の備蓄医薬品など確認したり、聞かれそうな質問を想像し、代替案を用意してから疑義照会をしましょう。
ありがちなトラブルと、気をつけたいマナーや注意点

誰でも間違いだと指摘されると、気分を害されてしまいます
また、単に薬剤師の勉強不足で、使い方を知らなかったり、
治療の仕方を知らない場合もあり「もっと勉強してください」と、お叱りを受けてしまうこともあります。
「指摘」「意見」「報告」と言った内容にならないよう、「相談」するという言い回しや言葉遣いを心がけることが大切です。
処方せんに書かれていることを正しいと思うな!
「自分より知識や経験があって、ましてや医師が書いたものだから間違っているはずはない」
という幻想を捨てなければなりません。
医師だって同じ人間です。
診察で患者さんの聞き取り不足があったり、カルテのチェック漏れが起きる可能性はゼロではありません。
疑義照会もれを防ぐためには、「必ずどこかに不備がある!」という前提で、処方せんをチェックする必要があります。
疑義照会をしなかった場合、薬剤師の責任は?

もし疑義照会をおこたってしまった場合、調剤過誤や事故の確率はうんと上がります。
信号を見ないで交差点に突っ込んでいくような行為です。
処方箋に疑わしい点があるにもかかわらず、疑義照会をせずに、
患者さんに健康被害が発生してしまった場合は、もちろん法的責任を問われます。
先日も、以下のような調剤事故がありました。
潰瘍性大腸炎の男性、薬の処方ミスで「死ぬ思いをした」医師と薬剤師を提訴 https://t.co/4IcwAbpDhS
— 弁護士ドットコムニュース (@bengo4topics) October 12, 2021
併用禁忌を見落としたことで発生してしまった事件です。
とっても怖いですよね。
同業者として、明日は我が身と思って気をつけるしかありません。
では、疑義照会したけれど「そのまま出しておいて」と言われてそのまま調剤し、
結果として患者さんの健康被害が発生してしまった場合、薬剤師の責任が問われるでしょうか?
このような場合でも、薬剤師に法的責任が問われます。
損害賠償を払わなければならない可能性が高く、刑事的責任を負う可能性も否定できません。
「そのままで」と医師に言われたら、「いいのかな?」と思ってしまいますよね?
しかし今回解説したポイントを抑えて、疑義照会した理由をきちんと説明することで、
必ず医師も理解してくれるはずです。
患者さんの健康だけでなく、自分の身を守るためにも、必ず疑義を解消してから、薬をお渡しするようにしましょう!
まとめ

疑義照会は、薬剤師法第24条によって義務付けられており、薬剤師の重要な業務です。
患者さんが安全に薬を服用できるよう、処方せんの不備や間違いを防ぐだけでなく、
大きな医療費削減効果があることもわかりました。
疑義照会には、その内容により「形式的疑義照会」と「薬学的疑義照会」に分けられ、
疑義照会をしたら必ず記録を残す必要があります。
疑義照会をスムーズに進めるには、
- 患者さん本人に診察時の指示や注意点がなかったか
- 要点をまとめて手短に
- 事前に代替案を用意する
この3点に注意しましょう。
また、疑義照会のマナーとして「指摘」「意見」「報告」と言った表現を避け、
「相談」するような言い回しを心がけることが大切です。
もし、薬剤師が疑義照会を怠って、患者さんに健康被害が起きた場合は法的責任が問われてしまいます。
経験年数が浅い頃は、疑義に気がつくことも難しいかもしれませんが、
今回開設したチェック項目やポイントに注意することで、疑義に気がつくことができると思います。
今回開設した内容を身につければ、新人薬剤師でも疑義照会をスムーズに進められるようになるでしょう!
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