
薬剤師を目指す人の多くは文系ではなく理系ですし、薬学部は入試で必ず理系科目を課します。
「文系だけど薬剤師になりたい、でも文系と理系で考え方が、どう違うのかわからない」
と尻込みしてしまいますよね。
実は文系と理系の考え方の違いは、”常識と事実”で説明がつくのです。
理系思考を身に付けてしまえば、文系のあなたも薬剤師になれるのです。
この記事は、薬剤師を目指す文系のあなたが理系の思考回路を理解するための処方箋です。
理系の考え方を身に付けるためのヒントや、薬剤師を目指す上で重要な科目をご紹介します。
文系で薬剤師を目指すあなたが、夢をかなえるきっかけになるかもしれません。
文系・理系の思考回路の違いとは?

高校時代の現代文の授業中の話です。
現代文の問題の解き方について、当時の先生のお話が、とても分かりやすかったので、ご紹介します。
文系と理系の理論的思考の違いがよくわかります。
“きれいな女性がこちらに微笑みながら手を振ってきた。僕は赤くなって目をそらしてしまった。”
「”このときの’僕’の気持ちを答えなさい”っていう問題があったら、何が正解だと思う?」
先生が生徒に問いかけました。
私は「そんなの本人しかわからんだろ」と、頭の中で考えていました。
先生は続けました。
「文系的な考え方だと”照れたから”とか”気恥ずかしくなったから”とかが正解」
ふむ、言われてみれば確かにそんな気はします。
しかし、”文系的な考え方”とはどういうことでしょう?
再び先生は話し始めました。
「理系的に考えると、この状況からわかることは、
一つ目、きれいな女性がこちらに手を振っていること、
二つ目、僕が赤くなって目をそらしたこと、
の2つだけであって、気持ちについての予想はできても、断言はできない。
今の材料だけではわからないんだ。」
なるほど、理系ならば、予想と事実は分けて考えるということです。
文系科目、特に小説の読解では、ある程度”空気を読んで”考える必要があるのです。
一方、理系的な考え方では、客観的な事実に重きを置き、そこから推測を立てても、断言はしないのです。
‘僕’の気持ちを知りたければ、インタビューなどをするしかないのです。
薬剤師として働く際は、やはり理系の考え方が重要でしょう。
医薬品についての文献を読むとき、
- 数字に注目した判断
- 論文筆者が書きたかったこと
の2つの解釈を比較するなら、前者の方が患者の利益につながります。
想像してみて下さい。
“数字通りの結果を推測する薬剤師”と”筆者の希望的観測を鵜呑みにする薬剤師”どちらに診てもらいたいですか?
文系が薬剤師を目指す難しさ
前述の通り、理系の世界において、文系的な考え方は”単なる想像”にすぎないのです。
薬剤師を含め、理系の世界で生きて行くには、常識や雰囲気に流されない判断力が必須です。
その判断力を養うのに重要なのが、理系科目を学ぶこと(特に統計学)です。
素養としてだけでなく、薬剤師を目指す上で、入試科目としても理系科目は避けては通れません。
このため、薬剤師を目指すことを決めた時点で、文系の人は理転するべきです。
そして、勉強では”暗記”ではなく”理解”を楽しんでください。
暗記に頼ると理系科目は少しも楽しくないし、労力がかかりすぎます。
以下では、薬剤師を目指す上で、選択しておくべき科目や見据えておくべき学問について解説します。
化学

薬学部では、高校レベルの化学ができないとお話になりません。
「薬学部に行きたいけど、化学がわからない」
という方は、早急に対策するべきです。
薬物はほとんどが有機化合物なので、そこへの基本的な理解として有機化学は必須です。
また、薬効反応は平衡反応というメカニズムに従うので、理系でも苦手とする人が多い理論化学の分野ができないといけません。
ほかにも、反応速度や酸塩基反応、酸化還元反応など挙げ出したらキリがありません。
薬剤師を志すならば、化学を避けては通れません。
そして、化学は理解すればするほど、暗記量が減らせる科目です。
例えば、
「水素結合は分子内の水素-酸素結合によって生じる分子間力である」
と暗記せずに、
「水素結合は電気陰性度の差が大きい原子間で、水素原子と非共有電子対を介して生じる」
というように原理を理解しましょう。
後者の理解があれば、
- 水分子は分子1つあたり2つの水素結合を形成する
- アンモニアは分子1つあたり1つの水素結合を形成する
以上の2つがわかります。
さらに、水分子の”2本の水素結合を形成する”という特性で、
沸点の高さ、氷の三次元網目構造、個性的な蒸気圧曲線、昇華性
など、様々なことに説明がつきます。
理解を通して、手を抜いてください!
数学

薬学部入試において、数学を課していない大学はほとんどありません。
これは、数学が”事実だけをくみ取って利用する学問”だからでしょう。
理系思考そのものです。
このため、数学の勉強は、他の理系科目を進める上でも理解の助けになります、特に物理。
ぜひ数学は得意科目にしておきたいところです。
また、確率の発展分野である統計学に理解があることは、医療の現場に出ても武器になります。
統計学は”科学の文脈”とも言われる学問で、研究結果を正しく解釈するのに役立ちます。
統計学を身に付けることで、最新の治療法が本当に効果を期待できるものか判断できるようになります。
数学が得意な人は、数学の問題をパズル感覚で解くといいます。
その通りです。
数学の問題は必要な情報を揃えていくパズルなのです。
パズルで遊ぶような気持ちで、取り組んじゃいましょう!
意外と大切な物理学

高校の文理選択の時点で、薬剤師を目指そうとする場合、多くの人は化学と生物を選択するのが良いと考えると思います。
しかし、薬学部入試で優遇されるのは、生物ではなく物理なのです。
「え、薬学って生物と化学を応用した学問じゃないの?」
と思いましたか?
要求される知識の種類としては、確かに生物と化学が中心なのですが、考え方のベースとして大きいものは物理と化学なのです。
薬学の世界で扱う生物の知識は細胞や生体分子レベルの小さな世界のものです。
生物の細やかな世界を理解するのに必要なのが化学です。
そして、化学的に生物を理解する上で重要になるのが物理の考え方(特に熱力学)なのです。
入試科目として、物理を指定する大学が増えつつあることも、念頭においておきたいポイントです。
文系の人にとっては、チンプンカンプンになりがちな物理学ですが、身に付けるメリットは大きいです。
挑戦しましょう。
ところで、物理学が“なまけものの学問”と呼ばれることがあるのをご存じでしょうか?
ごくわずかな公式をしっかり理解するだけで、すべてに対応できる科目なのです。
また、問題を解くときも、
「数式立てるの面倒くさいな、ショートカットしよ」
と考える方が、答えにたどり着きやすいのです。
物理を勉強するときはサボりまくってください!
生物は大学からでもなんとかなる

薬学部の生物では、生体内の反応を順を追って説明できることが重要です。
これは暗記の要素がどうしても強くなるため、文系のあなたはきっとお得意でしょう。
「量が膨大で大変」ということはあっても、「理解できずに苦しむ」ということはあまりありません。
学生時代の勉強を振り返ると、やはり生物選択者の方が
「わからない、わからない、わからない……」
と涙を飲んでいたように思います。
また、入試で生物を指定している大学はほとんどありません。
選択科目はぜひ物理を!
薬学部で求められる英語力とは

世界の論文はほとんど英語で書かれていますが、理由をご存じでしょうか?
“文法が単純な言語だから”です。
Scienceの世界では、難しいことがらをシンプルな英文で記述するのです。
ただし、一文が長く、専門用語がハイレベルです。
また、似た意味の単語の使い分けにこだわります。
例えば、「indicate」、「possible」、「probable」では意味する確実性が異なりますよね。
これらの使い分けを、しっかりすることが求められます。
入試で重要視されるのは、やはり文法と読解になります。
聞いたり話したりすることは、入試時点ではそこまで問われないことが多いです。
まとめ
文系と理系との間で理解に差が生まれるのは
- 文系は常識や雰囲気に則って判断する
- 理系は客観的事実のみに焦点をあてる
という考え方の違いがあるためです。
数学は理系思考そのものであり、統計学は医療にも活きるものです。
薬学の理解には生物・物理・化学すべての要素が必須なものの、入試-学生の期間では物理と化学ができると有利になります。
そして、理系科目は理解を通して、楽しく、簡単になります。
英語は文法と読解、厳密な語彙が重要です。
楽しんで理系思考を身に付け、薬剤師になれることを願っています。